某株式会社の食品売場のドラマである。
結構お上品なお店なのであるが、夕方のお客さんに喜んでもらうために、正確には不況のために少ないお客さんに、少しでも買っていったもらうために、もっと正確にはそうでもしないと在庫がさばけないから、色々な理由を踏まえて「夕方恒例のタイムサービス」が毎日行われている。
向かい合った青果コーナーと鮮魚コーナーは、タイムサービスの花である。そうは言っても、性格はまるで違うのである、青果コーナーと言えば野菜と果物だが、果物はデザートであり、気に入った物がなければ買ってはくれない、今どきデザートになる食品は果物以外にいくらでもある、季節感を感じさせるこれだと言う一品が安ければいくらでも売れることも確かである。
もう一つの、野菜コーナーは品切れは大変なことだ、モヤシにしても白菜にしてもほとんどの野菜は、代用品がないのである。それなのに、今日は絶対に買うと言う物でもないのである、冷蔵庫に無くなりそうだからとか、全部使ったから買っておこうなどという物らしい、言い換えれば「常備・・・」と言うように、すぐに使わないかも知れないが、値段と品物が安ければ買っておこうとなる。
鮮魚コーナーは、今晩のメインディッシュとなる一品が必要だ、ここで何か買わせないと次に控える精肉コーナーへ流れてしまう、鮮魚コーナーか精肉コーナーのどちらかで、何か一品以上買う場合が圧倒的に多い。しかし、メインディッシュと言うことからも、あれもこれもと何品も買ってくれる可能性は低い、だから、一尾数十円のサンマで終わるよりは、数百円するマグロなどを買ってもらえれば、トータルで何倍も売り上げが変わってきてしまう。
こんな組み合わせを考えて、今日の相場が強いか弱いか、隣の同業者の手の内も考えたりして「タイムサービス」の品物が決められていく。まして、相手はこの道何十年のおばさん相手だから、一筋縄では売り上げを上げて利益を確保するなんて出来ない。難しい季節や天候もある、そんなときこそベテラン社員の考え抜いた一品が大当たりする。
しかしだ、社長が夕方まで店舗を巡回している日は、鮮魚コーナーはいつにも増して勢いが良い! 決して、いいとこ見せようとか、ゴマすっておこうとか、そんな考えではないのだ。
夕方前に社長のベンツが駐車場にあると、その日は「キュウリ魚の干物」がタイムサービスにかかる。キュウリ魚とはシシャモと言うか、シシャモがキュウリ魚科のお魚なのです。さて、夕方にお客さんが通路を埋め尽くす時間になると、ドカンと商品が山積みされる、実際には山積みしているように見せるのがこつなのだが・・・。
「さ〜っ、いらっしゃい、いらっしゃい!」かけ声が、一段と大きくなる
「安いよ、安いよ! キュウリ魚安いよ! お買い得、お買い得! さあ、ひからびたキュウリ魚だ!!」
そうすると、社長がよってくる
「ひからびたキュウリ魚よりも、シシャモと言った方が良いんじゃないか?」
「北海道産の本シシャモと区別しないと、お客さんが間違えるといけないので、今は野菜・果物も産地表示が当たり前ですからね」
そう言われて、社長もそんな物かと売場を後にする、しかしその背中に
「安いよ、安いよ! 給料安いよ! お気の毒、お気の毒! さあ、ひからびた給料だ!!」
そう言う風にしか聞こえないのは、偶然なのだろうか?